先にアクセサリーを見よう。

お腹が空いたほうがより美味しく食べられる。

その考えに満足して香穂子は五件店を過ぎて一つ角を曲がって三件先の店へと向かった。

「あれ?」

店の前に立っている、見知った人影。

数ヶ月、クラスの友人よりももしかすると接することが多かったかも知れない。

「火原、先輩?」

「香穂ちゃんっ?!」

びくりと肩を震わせて香穂子を見ると、香穂子と自分が立っている店の前を交互に見遣った。

「やっあのっそんな趣味があるんじゃ…!」

いぶかしげに火原の様子を見ていた香穂子の視線を勘違いした火原の科白に、香穂子は一瞬呆気に取られた後くすくすと笑った。

「わかってますよ。誰かにプレゼントですか?」

「えっ!うー…あーまぁ……うん」

だがその店は女物ばかりのアクセサリーが陳列している。

ならば火原に、アクセサリーをプレゼントしたい相手がいるのだと想うと少し寂しさを感じた。

「あっ…と、じゃああたし一緒に入りましょうか?」

「だ、駄目だよ!」

その語気の強さに香穂子は微かに目を見開いた。

今まで火原が半ば本気で声を荒げたことなんてなかった。

彼が持つ優しさや楽しさに甘えていた気はするが、決して嫌われていないと思っていた。

「あ違う!違うんだよ!だから泣かないで!」

「え?」

火原の言葉を頭で纏めることに必死で気付かなかったが、微かに視界が歪んでいる。

涙目、というところだろう。

大股で香穂子に近寄ってパーカーの袖で涙を拭った。

「すみませ……」

「ううんおれの言い方が悪かったんだよ。その……香穂ちゃんだから」

「は…?」

「そのプレゼントしたい相手、香穂ちゃんだから」

様々なことが起因してその全てが火原の朱さに働いている。

「でもあたし誕生日まだですよ…?」

「知ってるよ。でも日野ちゃん、コンクール頑張ったでしょ?

そのお疲れさまと…有難うの意味を込めて、何かプレゼントしたかったんだ」

ごめんね、と語気を荒げたことに対して謝る火原に香穂子は首を振って答えた。

「でも良いんですか?」

「おれがしたいだけだよ」

顔をあげた香穂子を、火原はまだ朱いけれど優しい笑顔で迎えた。

「あっでもあたしの方がお世話になってるじゃないですか!」

何か欲しい物ないですか、と聞く香穂子に火原は少し首を傾げた。

「…物じゃなくても良い?」

「火原先輩が喜んでくれるなら」

にこにこと笑っている香穂子の指先を火原は軽く握った。

「来年の今頃も、その次もずっと、おれがプレゼントするものをつけてる香穂ちゃんに会いたい」

来年には卒業してしまうことを忘れているのではない。

卒業してしまった寂しさを感じさせないほど、ずっといつでも。



それに応えるため、香穂子は小さく微笑んで指先を握り返した。