会いたくて逢いたくて。

隣りに君が座っているだなんて、まだ夢心地で。

少しずつ、君が居る現実を感じていたい。









「ねぇ、僕まだこの学校の勝手わかんないから案内して欲しいな」

いつもよりざわついた教室。

その原因は原因であることを自覚したまま、隣りの席の少女に話しかけた。

香穂子は突然の頼まれ事をにこりと笑顔で受けた。

「放課後で良いかな?あたしも人探さなきゃいけないから…それに付き合ってくれるなら良いよ?」

「りょーかいっ」

話し終わったところで教師が入ってきた。

騒ぐ生徒を制する声を聞きながら、加地はちらと香穂子を盗み見る。

ずっと憧れていた少女が隣りにいる。

願って止まなかった幸せがある。

人の噂で学校と学年と、苗字は知っていた。

(日野、香穂子さん)

いつか、名前で呼べたら。
















「で、ここが購買ね。お昼はすっごいひとなんだよ」

「へぇ…僕も男子校だったから勢いは凄かったけど、星奏は生徒が多いからね」

「後輩の女の子でね、凄く可愛い子がいるんだけど気が優しすぎて断念しちゃったりね」

高校としては規格外に広い星奏学院を香穂子は丁寧に案内してく。

案内の初めに、「一回じゃきっと覚えれないから幾らでも訊いてね」と付け足して。

「その一年生は知らないけど、日野さんも凄く可愛くて優しいよ」

「ええっあたし?うんと…あ、ありがと……」

驚いて顔を赤くして、それでも性分なのか癖なのか、話している時視線は逸らさない。

彼女に描いていた理想はあったが、それ以上だ。

「あっ!ごめん、あたしの人探し見つけた!」

「え?ああ……」

少し待ってて、と告げてある人物の元へ小さく駆けてく。

「柚木先輩!」

「ああ日野さん、こんにちは」

女の子よりも長い髪を背に流し、穏やかな笑みを投げた。

ちらりと香穂子から幾らか距離が空いた加地を見、また香穂子を見た。

少し身を屈めて香穂子の耳元で何かを告げる。

加地まではその声は決して届かないが、先ほどよりも朱に染まった香穂子の耳は見えた。

(――――――気分が悪い)

何を言ったか知らないが、自分より過敏に表情を変えてしまうことが。

それから。

まるで加地の心境を見透かしたように琥珀の瞳は悪意を持って加地を一瞥した。

ひた隠しているために香穂子はその剣呑さに気付かない。

加地が人の機微に聡いからか、香穂子が疎いからかはわからないが。

「もうっクラスメイトを案内してるんですっ。あたし先輩にお願いがあってですね」

柚木から一歩下がり、距離を取ったことに小さく安堵する。

「そうなんだ?ぼくには出来ることなら」

「……王崎先輩に頼まれて笙子ちゃんとアンサンブル組むんですけど、良ければ出て頂けないかと」

「構わないよ。嬉しいな、また君の演奏が聴けるだなんて」

しなやかな指先を口許に当て目許を和ませた。

「あとヴィオラなんですよねー…」

視線を落として困った風の彼女を、純粋に助けたい。

自分では、彼女の足を引っ張ってしまうかもしれないけれど。

その時の腹も括って。





「――――――日野さん」

唐突に呼ばれ、長い睫毛が縁取る、自分を認めた瞳が愛しい。



「そのヴィオラ、ぼくじゃ駄目?」



優しい彼女が、断れないのは知っているけれど。



























人柄を知ってこその恋だと思うので、加地だけは転校して来た日が恋愛記念日だよ!とか頭が湧いてるみたいなこと考えました!