片恋の頃。

ただ貴方に会いたくて、話したくて通った、この場所。

比較的重い扉に手を掛け「居ますように」なんて願をかけながら押し開く。

いつからか、此処にいる回数が増えていったその真意に気付かないまま、自分だけの本当の笑顔を想った。



想いが通じ合った今。

それでも待ち合わせはこの場所。

言動は相変わらずのまま、それでも甘さが増したこの関係をくれた貴方に、また恋をした。

日増しの寒さすら気にならない夢のような時間。



夢は、あと少しで醒めるけれど。
















醒める夢。冷めやらぬ恋




















キィ、と屋上の扉を開ける。

その向こうには升目に填められた地面と、装飾的な柵と、傾きかけた太陽。

落胆することなく香穂子は階段を上がった。

「そんな恰好見つかったらどうするんですか」

香穂子が見下ろす先にはコートを体にかけ寝そべる柚木。

「こんな寒いとこ、お前か、卒業目前にして告白する奴らだけだよ」

「……覗いたんですか?する前に声かけてあげて下さいよ。それにそのあと見つかったら…」

「その時はその時。『ごめんね、盗み聞きするつもりじゃなかったんだ。僕はただ、三年間本当に楽しかったなって思いに耽っていたのだけれど……』」

「せ、性格わるい……!」

寝転がり、両手を組んで頭に回したまま声音と科白だけは見事に「みんなの柚木様」だ。

「惚れ直しても良いよ」

「先輩、その性格でその顔じゃなかったら印象最悪ですよ」

「言うじゃないか」

笑い合いながら柚木は香穂子の腕を引っ張り座らせ、その膝に頭を乗せた。

「そういえば親衛隊の先輩方が探してましたよ、もうすぐ卒業なのに見つからないって」

「で、お前はその横を素通りして俺のとこに来たの?」

「残念なことにあたし、「みんなの柚木さま」じゃなくて「柚木梓馬」に会いに来たんで、人違いかと」

いけしゃあしゃあと言う香穂子に柚木は盛大に吹き出した。

「性格悪くなったね、お前」

「惚れ直して良いですよ」

「馬鹿は休み休み言え」

また少し笑い合って、吸い込まれるように声が消えて沈黙が降る。

卒業式前の学校は、少し独特だ。

常より忙しないが、常より人がいない。

式に備えるのに、祭りの後の片付けのような。

「三月」

「え?」

「三月の中頃にね、火原が卒業旅行行こうって」

少し、目許を和らげて柚木は話した。

表面上で対応せざるを得ないが、柚木が信頼した親友。

「一泊二日だけど、家には一日多く言うから、何処か行こうか」

「え……」

「今までみたいには逢えないからね。ただし空けろと言った日は空けろよ?」

ぽかんとしている香穂子に柚木はむっとした。

「何その顔。行きたいとこでも考えておけ」

「先輩といれたら…そんなの、何処でも良いです」

今度は柚木が呆気に取られたあと、仄かに頬に朱が散った。

「顔、赤いですよ」

「五月蠅い。夕日だよ」

太陽の位置は丁度香穂子の直線上。

夕日が柚木を染め上げる事は叶わない。

夕日と柚木を交互に見る香穂子に歯噛みした。

「…ねぇ、梓馬先輩」

笑いを堪えながら言う香穂子の髪を柚木はその指に絡めて引いた。

体勢を崩した香穂子の唇を柚木だけが把握しているスピードで掠め取る。

さも意地悪に口端を上げた柚木は香穂子に告げた。

「顔赤いよ、香穂子」

「………夕日です」





真っ赤に染まった香穂子の頬に柚木は口接けを贈った。












夢が醒める。

けれど恋は冷めることなく、また花をつけ続ける。

夕日では染められない、その頬のような薄紅の花。

唯一染めることが叶うそのひとだけの、花。





































火原なら卒業旅行言いそうだなって。なんていうか、5人全員で考えても。
火原は柚木の家柄とかは普段頭からすっこ抜けて柚木と接してるよな?な?(縋るように)
周りが「おいおいやめとけよ」みたいな空気の中「柚木も行くだろ!」って普通に言ってたら良いなと。

…………柚木がネズミーランド行くんかな…。